研究内容

 「宇宙はどのように誕生したのだろうか?宇宙創生を含む万物を説明する究極の物理法則は存在するのか?」

 桜井研究室では、これらの根源的な問いに答えるべく、その鍵となる宇宙のインフレーションを検証する宇宙マイクロ波背景放射(CMB; Cosmic Microwave Babkground)偏光観測実験を推進しています。



 宇宙のインフレーションとは宇宙創生10-38秒後の指数関数的膨張を記述する初期宇宙論です。アメーバが一瞬にして銀河のサイズになるほどの大膨張です。

 インフレーションは、初期宇宙の微小かつ高エネルギー密度の空間と重力場の相互作用による量子的な揺らぎが発生源とされており、まさに重力の量子化とも言える現代物理学において最も重要な研究課題の一つです。 現代宇宙論の地平線問題、平坦性問題などの未解決な問題を一挙に解決することもできる最も有力な初期宇宙理論です。

 しかしながら、この宇宙創生に最も迫る物理現象の実験的な証明に、未だ人類は辿り着いていません。決定的証拠となるのは、インフレーション期に発生したとされる原始重力波を発見することです。宇宙の大膨張により空間そのものが揺れ動き、その揺れが波として伝播しました。これが原始重力波です。



 宇宙マイクロ波背景放射(CMB)は、宇宙が誕生してから約38万年後に放射された宇宙最古の光です。ビッグバンからの残光であり、宇宙の「生まれたての写真」とも言われています。CMBには、初期宇宙の”ゆらぎ”の情報が刻印されており、精密測定から宇宙の大きさ、年齢、成分、進化の歴史などについて知ることができます。





 CMB偏光観測実験は、原子重力波によってCMBの”偏光”成分に刻印される特殊パターン「Bモード」の検出から、インフレーションの実験的検証を目指す実験です。また、CMBの観測から、宇宙の大規模構造や暗黒物質、暗黒エネルギー、ニュートリノなど、宇宙・素粒子物理学のパラメーターを探る重要なツールとなっています。これらの検証に向けて、数々の実験が世界中で熾烈な競争を繰り広げており、まさに宇宙・素粒子物理学のホットトピックスと言えます。


 桜井研究室では、Simons Observatory地上実験とLiteBIRD衛星計画 という2つの国際共同実験プロジェクトに参加し、最先端のCMB観測を行っています。また、産業応用も視野に入れた低温デバイスの開発も行っています。



Simons Observatory
Simons Observatoryは、南米チリに設置された地上望遠鏡を用いた大型国際実験プロジェクトです。宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の偏光の精密観測を通して、インフレーションからニュートリノ、宇宙の大規模構造の解明等、幅広い科学成果を目的としています。
桜井研究室では、超伝導磁気軸受を用いたサファイア半波長板システムや反射防止構造付き光学素子の開発、データ解析などを担当しています。
LiteBIRD 衛星計画
LiteBIRDは、2032年の打ち上げを目指すJAXA主導による科学衛星計画です。全天における宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の精密偏光観測を3年間行い、熱いビッグバン以前の宇宙を記述する最有力仮説であるインフレーション宇宙仮説を検証します。
桜井研究室では、LiteBIRD 低周波望遠鏡用偏光変調装置や系統誤差解析、銀河放射除去法の開発などを行っています。
低温光学デバイスの開発
CMB実験で扱うミリメートルの波長の電波は、宇宙論のみならず通信、気象、産業等の様々な応用が可能です。この光を効率的に集光し検出するためには、低温でも安定動作する鏡やレンズ、フィルター等の光学素子、半導体、機械構造体などが不可欠です。宇宙・大気圏外等の次世代産業への応用を目指し、広帯域かつ高精度な低温デバイスの開発を目指します。特に、ミリ波偏光板や反射防止、低温駆動機構、低温半導体の研究を行っています。